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Ⅴ-3.下鼻甲介手術の効果

下鼻甲介手術の中のいずれの手術を用いるかは、「鼻づまり」の程度や年齢など患者側の状況によっても、また手術を行う医師の判断によっても異なります。粘膜凝固術には、局所麻酔下に外来で実施可能、出血のリスクが少ない、また術後にガーゼなどを用いたパッキングが不要などの長所があることから、保存的治療では改善しない「鼻づまり」に対しては、まず粘膜凝固術を選択するのが最近の傾向であろうと思われます。

下鼻甲介粘膜凝固術

では粘膜凝固術は、保存的治療では改善しない「鼻づまり」に対してどの程度の効果を期待できるのでしょうか? 粘膜凝固術の治療効果に関する数多くの報告があるものの、ほとんどは数ヶ月以内の短期成績を示したもので、術後1年以上の長期成績を示した報告はまれです。

最も長いものは、ドイツのRuppinerクリニックからの報告で、ラジオ波電気凝固術から20ヶ月経過した34例の治療成績として、自覚的な鼻閉の改善率が85%に達することが示されています[文献30]。他方、アルゴンプラズマ凝固術の長期治療成績については、121例の12ヶ月後の成績がドイツのマンハイム大学病院からなされており、この中で、自覚的な鼻閉の改善率が83%に達することが示されています[文献31]。

その他、粘膜凝固術から12ヶ月目の成績については、いくつかの報告がみられます[文献32~34]。上記の報告も含め、これらは、対象となる「鼻づまり」の程度、用いられた方法、また評価方法がまちまちで、効果を比較することが困難です。これらの限られた資料から粘膜凝固術の治療効果の概略を述べると、保存的治療では改善しない「鼻づまり」のおおよそ80%は、自覚的には少なくとも1年程度、効果が続くようです。 下鼻甲介切除術 ・ 下鼻甲介切除術においては、比較的最近、術後から2年以上の経過を追跡した報告が二つ出されています。

一つは、1999年にベルギーのAZ-Middelheim病院からのもので、下鼻甲介形成術から2年以上(最長9年)経過した42例の治療成績として、自覚的な鼻閉の改善率は88%に達することが示されています[文献35]。

また、粘膜下骨切除術(163例)と、粘膜凝固術(レーザー手術45例、電気凝固術62例、冷凍手術58例)の6年後の効果を比較した報告が、2003年にイタリアのSiena大学病院から出されています[文献36]。これによると、粘膜下骨切除術の効果は、いずれの凝固術より長く、手術から6年後も1年後と同様の効果が続いていることが示されています。

以上の報告を見る限りでは、効果の持続といった点に関しては、切除術の方が粘膜凝固術より優れているようにみえます。

[文献30] Seeger J, Zenev E, Gundlach P, et al. Bipolar radiofrequency-induced thermotherapy of turbinate hypertrophy: Pilot study and 20 months' follow up. Laryngoscope 113:130-135, 2003.

[文献31] Bergler WF, Sadick H, Hammerschmitt N, et al. Long-term results of inferior turbinate reduction with argon plasma coagulation. Laryngoscope 111:1593-1598, 2001.

[文献32] Lin HC, Lin PW, Su CY, et al. Laryngoscope 113:673-678, 2003.

[文献33] Back LJJ, Hytonen ML, Malmberg HO, et al. Submucosal bipolar radiofrequency thermal ablation of inferior turbinates: a long-term follow-up with subjective and objective assessment. Laryngoscope 112:1806-1812, 2002.

[文献34] O'Connor-Reina C, Garcia-Iriarte MT, Angel DG, et al. Radiofrequency volumetric tissue reduction for treatment of turbinate hypertrophy in children. Int J Pediatr Otolaryngol:597-601, 2007.

[文献35] Schmelzer B, Katz S, Vidts G. Long-term efficacy of our surgical approach to turbinate hypertrophy. Am J Rhinol 13:357-361, 1999.

[文献36] Passali D, Passali FM, Damiani V, et al. Treatment of inferior turbinate hypertrophy: a randomized clinical trial. Ann Otol Rhinol Laryngol 112:683-688, 2003.