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Ⅲ-1.「鼻づまり」の弊害

鼻からの呼吸(鼻呼吸)が心身の健康に有用であることは、ヨガや座禅の手引書、また種々の健康増進書籍などを通して広く知られています。これと対照的に、「鼻づまり」が引き起こす弊害については、ほとんど耳にすることも目にすることもありません。これは、「鼻づまり」が私たちの体に及ぼす弊害について、注目されるほどに十分な解明が進んでいないためであろうと思われます。しかし臨床の場において治療前後の小児の変化を目の当たりにするとき、「鼻づまり」には一般に理解されている以上に深刻な弊害が潜んでいることを実感させられます。

治療後に鼻呼吸を取り戻した小児は、様々な表現で術後の変化を話してくれます。中には「宇宙と交信しているみたい」、「空気が四方八方から入り込んでくるみたい」といったユニークな感想もありますが、その変化を大きく次の5つに分類することができます。すなわち、「急に身長が伸びた」に代表される"体の発育"の変化、「振り向きもしなかった本をはじめて読むようになった」などの"集中力"や"脳活動"の変化、「ゲームばかりしていたのに急にサッカーをするようになった」「運動しても息がきれにくくなった」などの "運動能力"の変化、「イライラがなくなった」のどの "精神的な安定度"の変化、そして「お母さんの料理の味がわかるようになった」などの"匂い"や"味"に関する変化です[図Ⅲ-1-1]。

ここでは、「鼻づまり」が脳や身体に引き起こす弊害について、また、嗅覚障害、副鼻腔炎、喘息などとの関連性について、これまで明らかにされていることをまとめてみます。

図Ⅲ-1-1